- 相場観
- 「この仕事なら、このくらいの金額だろう」という頭の中のものさしです。人や会社の大きさによって違います。
- 稟議(りんぎ)
- 担当者だけでは決められない支出を、上司や決裁する人に書類で回して承認をもらう社内の手続きです。
- 支払サイト
- 請求してから、実際にお金が振り込まれるまでの日数のことです。「月末締め翌月末払い」なら、最大でおよそ2か月かかります。
同じ30万円でも、重さが違います
たとえば、ある仕事に30万円の見積書を出したとします。
大きな会社の担当者にとって、この30万円は部署に割り振られた年間の予算の中から出すお金です。担当者が考えるのは「予算の枠に収まるか」「上司に説明がつくか」で、自分の財布が痛むわけではありません。
個人事業主にとっての30万円は、自分の手元の現金です。考えるのは「これで何か月分の利益が飛ぶか」「払ったあと、来月の仕入れは回るか」です。同じ数字でも、片方には帳簿の1行、もう片方には暮らしに直結する金額になります。
どちらが正しいという話ではありません。ものさしが違う者どうしが、同じ見積書を見ている。商談で話がかみ合わないとき、原因はたいていここにあります。
相場観が違う3つのところ
1. お金の単位:予算の枠か、手元の現金か
大きな会社は、年度ごとに予算を決めて動きます。予算に入っていない支出は、金額が小さくても通しにくく、逆に予算に入っていれば、まとまった金額でも話が進みます。「高いか安いか」より「枠に入っているか」が先に来ます。
個人事業主は、その月の売上と手元の現金で考えます。毎月の支払いになるのか、一度にまとめて払うのかで、同じ総額でも重さが大きく変わります。
2. 時間の値段:商談の1時間を、誰が負担するか
大きな会社の担当者が商談に使う1時間は、給料の中に含まれています。打ち合わせを3回重ねても、担当者の財布は減りません。だから、念のためもう一度打ち合わせを、という判断がしやすいのです。
個人事業主の1時間は、店を閉めたり現場を抜けたりして作った1時間です。打ち合わせが1回増えるたびに、その分の売上が止まります。1回の打ち合わせで決めたいと考えるのは自然なことです。
3. 決め方と払い方:日数がかかるか、その場で決まるか
大きな会社では、担当者が気に入っても、稟議・相見積もり・契約書の確認を経てから発注になります。発注のあとも、締め日と支払日が社内で決まっていて、納品から入金まで1〜2か月かかることが珍しくありません。
個人事業主は、自分で決めて、その場で払うことが多くあります。この感覚のまま大きな会社と取引すると、「仕事は終わったのに、お金が入ってこない」という期間が生まれます。
ずれは、どちらの立場にも起きます
大きな会社と商談するときには、個人事業主の側が相手のものさしを知っておく必要があります。逆に、個人事業主が大きな会社向けの値段表を見るときにも、ずれは起きます(逆の向きのずれで書きます)。
大きな会社には、安すぎる見積もりが通らないことがあります
個人事業主が大きな会社と商談するとき、意外につまずくのが安さです。
担当者は、見積書を上司に回して承認をもらう必要があります。そのとき、ほかの会社の見積もりから大きく外れて安いと、「なぜこんなに安いのか」「あとで追加の費用が出てこないか」「途中で投げ出されないか」を説明しなければなりません。説明の材料が手元に無いと、担当者は安いほうではなく、説明しやすいほうを選びます。
ここで値段を上げる必要はありません。担当者が社内で説明できる材料を、見積書と一緒に渡してください。
- 安い理由を1行で書く 「事務所を持たない」「外注しない」など、何を削ってこの金額なのか
- 入るもの・入らないものを分けて書く 「一式」でまとめず、範囲の外は別の行に
- 追加の費用が出る条件を先に書く 何をしたら、いくら増えるのか
- やめるときの条件を書く 途中で終わる場合の扱いを、先に見せておく
担当者が欲しいのは、安さそのものより上司の前で困らない材料です。それがそろっていれば、安さはそのまま強みになります。
大きな会社と商談する前に、確認しておく4つ
1. 支払条件
締め日・支払日・支払いの方法を聞き、納品してから入金まで何日かかるのかを、見積もりを出す前に確認してください。その期間、仕入れや外注の支払いを手元の資金で立て替えられるかを、先に計算しておきます。
2. 発注書が出る時期
担当者が「ぜひお願いします」と言っても、社内の決裁はまだ、ということがあります。発注書かメールで条件を受け取るまでは、作業を始めないでください。口約束で始めて、決裁で止まると、使った時間は戻りません。
3. 範囲と直しの回数
大きな会社では、確認する人が途中で増えることがあります。担当者のあとに課長、課長のあとに部長、とそれぞれから直しが入ると、作業はいくらでも膨らみます。見積もりに入る直しの回数を、先に決めておいてください。
4. 決める人と決まる時期
目の前の担当者が決める人とは限りません。誰が決めて、いつごろ決まるのかを聞いておくと、返事を待つあいだの予定が立てられます。
個人事業主を守る法律が、2つあります
大きな会社との取引で立場の弱くなりやすい側を守る法律が、ここ2年で2つ動いています。どちらも、条件を書面で求めることが失礼ではないことの裏付けになります。
フリーランス法(2024年11月1日施行)
正式な名前は「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律」です。従業員を使用しない個人と、代表者のほかに役員がおらず、従業員も使用しない法人が守られる側になります。
- 条件の明示(第3条) 仕事を頼んだ事業者は、直ちに、仕事の内容・報酬の額・支払期日などを、書面かメールなどで示さなければなりません
- 支払期日(第4条) 頼んだ側が従業員を使用する事業者なら、支払期日は、納品を受けた日から60日以内の、できる限り短い期間で定めなければなりません
取適法(2026年1月1日施行)
これまでの下請法が改められ、名前も「製造委託等に係る中小受託事業者に対する代金の支払の遅延等の防止に関する法律」(略して中小受託取引適正化法、取適法)に変わりました。公正取引委員会は、主な改正点として次を挙げています。
- 協議を適切に行わない一方的な代金決定の禁止
- 手形払等の禁止
- 適用基準に従業員基準を追加
どちらの法律も、当てはまるかどうかは取引の種類と会社の大きさで決まります。ご自身の取引が対象かは、公正取引委員会のフリーランス法のページと取適法のページでご確認ください。
逆の向きのずれもあります
ここまでは、個人事業主が大きな会社と商談する場面の話でした。ずれは、逆の向きにも起きます。個人事業主が、大きな会社向けのものさしで作られた値段を見るときです。
ホームページ制作がわかりやすい例です。制作会社の値段には、打ち合わせの回数、関わる担当者の人数、稟議に出すための資料づくりといった、大きな会社と取引するための手間が含まれていることがあります。大きな会社にとっては必要な手間でも、自分で決めて自分で払う個人事業主には、使わない部分です。
個人事業主が値段を比べるときは、「相場はいくらか」より、その金額で自分の商売に何が届くのかと、何年でいくら出ていくのかで見てください。比べ方はあいみつの取り方に、依頼文の雛形と5年でそろえる計算を置いてあります。
当社が決めていること
当社も、規模で言えば小さい側の会社です。大きな会社と取引するときのものさしのずれは、当社自身の問題でもあります。そのうえで、お客様との取引では次のことを決めています。
- 料金は全部公開し、相手を見て金額を変えない 会社の大きさで値段を変えると、あとでどのお客様にも説明がつかなくなります。スタータープランは月1万円(3ページ+SEO+MEO+AIO)、グロースプランは月2万円(ページ無制限+SEO+MEO+AIO)です。どちらも税込で、初期費用0円です
- 入るもの・入らないものを契約の前に書面で示す あとから「それは別料金」と言いません
- やめるときの条件を先に見せる 最低契約期間はありません。解約料は表のまま先に全部お見せしています
- 支払いは毎月の請求書で 銀行振込でお支払いいただきます
取引で立場の弱い側に負担を押しつけない、という約束は、パートナーシップ構築宣言として公の場にも出しています。
よく聞かれること
大きな会社が相手なら、値段を上げたほうがいいですか?
上げる必要はありません。通らない理由は、多くの場合、金額ではなく説明の不足です。安い理由と、見積もりに入るもの・入らないものを書面に書いて渡してください。相手を見て値段を変えると、あとで別のお客様に説明がつかなくなります。
支払いは60日先と言われました。受けて大丈夫ですか?
受ける前に、入金までの手元の資金が持つかを計算してください。従業員のいない個人事業主や一人社長の会社が、従業員を使う会社から仕事を受ける場合、フリーランス法により、支払期日は納品を受けた日から60日以内で定める決まりです。60日は上限なので、もっと短くできないかを聞くのは失礼ではありません。
見積もりの値引きを求められたら、どうすればいいですか?
金額だけを下げず、範囲を削って応じてください。「この金額なら、ここまでです」と内容を合わせて示します。金額だけを下げると、削った分はあとで自分の時間で埋めることになります。
発注書が出る前に、作業を始めてもいいですか?
始めないでください。大きな会社では、担当者が乗り気でも社内の決裁で止まることがあります。発注書かメールで、内容・金額・支払期日を受け取ってから着手してください。フリーランス法では、発注した側にこの明示が義務付けられています。
まとめ
- ずれの中身 お金の単位(予算の枠か手元の現金か)・時間の値段・決め方と払い方の3つ
- 安すぎて通らないとき 値段を上げずに、安い理由・範囲・追加の条件・やめるときの条件を書面で渡す
- 商談の前に聞くこと 支払条件・発注書の時期・直しの回数・決める人と時期
- 守ってくれる法律 フリーランス法(条件の明示・60日以内の支払期日)と取適法(手形払等の禁止など)
- 逆の向き 大きな会社向けの値段は、相場ではなく、自分の商売に届くものと総額で比べる
相場観が違うこと自体は、悪いことではありません。違うと知ったうえで、条件を先に言葉にしておいてください。それだけで、商談で起きる行き違いの多くは防げます。